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三重大学国際忍者研究センター センター員 酒井裕太さん

証拠を残さない忍者だからこそ追いかけたい

会社員から一転、忍者研究の最前線へ

 「忍者に興味を持ったのは大学生の頃。忍者を研究されている海外の方に、伊賀忍者について教えていただいたことがきっかけでした。伊賀出身者として、忍者の逆輸入は少し恥ずかしかったですね(笑)」と話すのは、三重大学国際忍者研究センターセンター員の酒井裕太さん(42)。

 

 伊賀生まれ、伊賀育ちの酒井さん。忍者の中でも近現代の忍者・忍術に興味をもち、学生の頃から個人で資料や情報の収集を行っていた。大学卒業後は食品関係の会社に就職したが、忍者研究の道をあきらめきれずにいたときに、同センターが開設。職員公募に応募し、採用され、今年で勤務7年目を迎える。

 

 センターでの仕事は、史料調査から執筆活動、講演会、事務作業まで多岐にわたる。主な著書は、様々な分野の忍者研究者の論文を掲載した『忍者学大全』東京大学出版会(山田 雄司 編/三重大学国際忍者研究センター 監修)。ほかにも、同出版社の月刊誌「UP」への執筆をはじめ、新聞での連載といった執筆活動も行っている。また、センターが主催する忍者・忍術学の市民講座で講演を行ったほか、2019年にアメリカのクリーブランド州立大学などでも講演を行っている。

 

 「センターに着任して、一番嬉しかったことは『忍者学大全』での論文発表ですね。権威ある出版社から著名な研究者の方と名を連ねて論文が発表できて、とても光栄でした。読書家だった父に、出版物を読んでもらえたことも嬉しかったですね」と酒井さんは話す。

 

 

酒井さんがアメリカのクリーブランド州立大学で行った講演会の様子(2019年)

酒井さんが他の研究者と共に論文を発表した『忍者学大全』東京大学出版会(山田 雄司 編/三重大学国際忍者研究センター 監修)

 

伊賀は忍者の聖地 地道な調査を実施してわかる忍者の痕跡

 酒井さんの重要な仕事の一つが、現地調査だ。忍術書『萬川集海』の写本が亀山で発見されたときの現地調査は、特に印象的だったという。「『伊賀本』にはない火術の加筆が確認され、成立年が違うと推定される、流布経路を知る上でも大変貴重な史料です。実際に自分の目で見たときは興奮しました」と当時を振り返る。

 

 伊賀での調査は、山城などのほかに、伊賀の旧家などで古文書の調査もおこなっている。「伊賀ではごくごく稀に『貝野家文書』『木津家文書』といった、とても貴重な史料が発見されることがあります。中々こういった史料は発見できませんが、一般の家庭から『忍びの家に娘が嫁いだ。忍びの者と一緒に仕事をした』という、忍者の存在を記した古文書を発見することはあります。身近な古文書から忍者の存在が確認できるのはすごいことで、伊賀が忍者の聖地である証拠と言えると思います」と酒井さんは話す。

 

藤堂藩士の名簿『伊賀分限帳』(所蔵:三重大学国際忍者研究センター)には「伊賀者、しのびのことなり」と記されている。

伊賀者が忍の達人であることを記した『将卒役令』(所蔵:三重大学国際忍者研究センター)

しっぽがつかめないから追いかけたい

 日々忍者と向き合っている酒井さん。自身にとっての忍者のイメージを聞くと「情報収集に長けていて、現代でいう特殊工作員。証拠を残さないのが忍者です」と答える。続けて忍者の魅力を聞くと「証拠を残さないので、しっぽがつかめない。一つのしっぽをつかんでも、新たな疑問にぶつかるので、つかんでもつかんでも終わりがない。そこが魅力ですし、ずっと研究しつづけたい存在です」と話す。

 

 三重大学の教授陣の下で働くセンターでの仕事は、とても貴重な学びが多く、楽しくて仕方がないと語る酒井さん。自身を忍者学の門番的存在だと例える。そんな彼に今後の目標について聞くと「忍者研究の最前線の研究者として、フィクションではない、史実に残る忍者を国内外に発信していきたいですね。国内はもちろん、海外にも忍者を学問として研究している方がたくさんいます。伊賀が忍者の聖地であるという発信が、故郷伊賀の活性化につながればと思っています」と笑顔で語った。

 

※国際忍者研究センターについての詳細は、公式HP(こちら)をご覧ください。

取材日:2025年5月

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