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劇団上野市民劇場 福北辨さん

演劇に魅了されて70年 今も現役で舞台に立つ

高校の部活動から演劇の道へ  

 「この歳で、みなさんと一緒に舞台をつくり上げられることが、本当にうれしい。悔いのない日々を過ごさせていただいております」と話すのは、劇団上野市民劇場(以下劇団)で演出と俳優を務める福北辨さん(87)。

 

 福北さんが生まれたのは、日中戦争が勃発した1937年。戦中・戦後の混沌とした時代に幼少期を過ごした。演劇の魅力を知ったのは、上野商工高(現・伊賀白鳳高)の演劇部で舞台に立ったことがきっかけだった。高校卒業後、就職のために大阪に移住したが、演劇への情熱は冷めることなく、昼間は仕事、夜は大阪の劇団で稽古に励む日々を送った。その後、戦死した叔父の家を継ぐため、22歳で帰郷し、当時の国鉄に就職。当時団員を募集していた劇団の門を叩いたのが、1959年のことだった。

 

 劇団の前身が結成されたのは1951年。これまで、社会に問題提起する作品を手掛けており、近年は「平和」や「人間の幸せ」をテーマに、沖縄や広島、ウクライナなどを舞台にした公演を行ってきた。多い時には20人以上いた団員は、現在5人に減少。団員数が減少する中、現在はピースリーディング(平和朗読会)という形で公演を続けている。戦後80年の節目となる今年は、被爆した女子中学生の遺族の手記を題材にした「第10回『八月の空に』ピースリーディング 広島第二県女二年西組‐原爆で死んだ級友たち」(2025年8月29日、30日/前田教育会館 座・蕉門)を上演。3回の公演すべてが満席となる盛況ぶりだった。

2025年8月29日、30日に上演した「第10回『八月の空に』ピースリーディング 広島第二県女二年西組‐原爆で死んだ級友たち」(前田教育会館 座・蕉門)での一幕。

 

芭蕉の一人芝居では「人間芭蕉」を表現

 劇団としての活動以外に、福北さんは芭蕉の一人芝居でも高い評価を得ている。初めて芭蕉を演じたのは、1998年に開催された国内最大規模の文化祭「国民文化祭」だった。その演技が作者の目に留まり、芭蕉の一人芝居が始まった。昨年開催された芭蕉翁生誕380年記念事業では、芭蕉に扮してパフォーマンスを行い、好評を博した。

 

 「芭蕉翁は雲の上のような存在で、自分が演じることになるとは夢にも思いませんでした。役をいただいてからは、たくさん本を読んで学びを深め、役作りに励んでいます。私が演じるのは、人間に対する愛情や苦悩、自然への追求が感じられる『人間芭蕉』だと思っています」と福北さんは芭蕉の役作りへの思いを語る。 

 

芭蕉翁生誕380年事業 結びイベント「芭蕉さんさらなる旅へ」(2024年12月6日/伊賀市文化会館) では芭蕉に扮してパフォーマンスを披露。

 

舞台に込めた思い 若い世代に向けて

 劇団でのこれまでの活動を振り返り「仕事や子育てが大変なときは、辞めたいと思ったこともあります。ですが、やっぱり演劇が好きだったことと、家族や周りの方達の支えがあったから続けてこられた。お客様に自分たちの思いが伝わると、上演してよかったと感じます。団員を含め多くの方が、舞台づくりに携わってくれるのは、同じような思いを持っているからかもしれませんね」と福北さんは話す。

 

 近年、公演のテーマにしている「平和」については「戦死した叔父の無念を晴らす生き方をしたいという思いが根底にあります。戦争で多くの人が亡くなったこと。現代の世界情勢を考えても、戦争は他人事ではないと思います。舞台を通して平和の大切さを多くの方に、孫の世代にも伝えていきたいですね」と語る。

 

 御年87歳を迎えた福北さん。劇団と自身の今後について「新作ではありませんが、来年の春頃に公演ができればと思っています。私個人の夢としては、今まで演じたことがない役に挑戦してみたい。これからも舞台に立ち続けたいですね。現在は団員の数も減っていますので、若い世代にもっと興味を持ってもらって、一緒に舞台をつくる喜びを感じてもらえるとうれしいです」と熱い思いを語った。

公演に向けての稽古の様子。仕事と両立しているメンバーもいるので、稽古は夜に行っている。

福北さんは演出も担当。演技の指導も行っている。

劇団上野市民劇場について詳しくは、福北さん(090-7697-8590)まで。

取材日:2025年8月

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