第45回 くノ一

 
忍者の聖地 伊賀

第45回 くノ一

三重大学人文学部 教授 山田 雄司

 国内外を問わず、「くノ一と呼ばれる女忍者は実際にいたのですか」という質問をよく受ける。それだけ女忍者は魅力的なのだろう。私の世代でくノ一というと、水戸黄門のかげろうお銀、すなわち由美かおるさんを想像する。ときに凜々しく、ときに妖艶に振る舞う姿は、お茶の間を魅了した。

 しかし残念ながら、そのようにくノ一が活動するのは戦後のことである。「男女平等」が叫ばれると、時代劇の中でもくノ一が登場して重要な役割を演じるようになった。忍者物は常にその当時の世相を反映しており、現在ではくノ一の活躍は映画やゲームなどで欠かすことができないものとなっている。また、くノ一とは女性を表す言葉だったが、女忍者のことも指すようになった。

くノ一として活躍する阿修羅の未央さんの写真

くノ一として活躍する阿修羅の未央さん

 職業として女性の忍者がいないのは、武士に女性の武士がいないのと同様だが、情報収集のために女性を利用することはあった。『万川集海』巻第八陽忍上には、「くノ一の術(『万川集海』では「久ノ一」と表記する)」について記されている。

 くノ一の術とは、くノ一の三字を一字とした者、すなわち女を忍びに入れることを言うとして、田力すなわち男が入りがたいときにこの術を使うとする。くノ一はその心が姦拙であり智恵も口も浅いので、その人物を十分見極めないといけないが、誓紙で堅く誓わせ、よくよく相図・約束を言い聞かせた上で、適切な方便で敵の奥深くへ遣わし、もし奥方の従者になれば謀略を成功させることができるとする。女忍者を塀を乗り越えたりする陰忍ではなく、台所など女性しか入り込めない場所に入れて、情報を収集する陽忍として用いるというのである。

 また、内部に侵入させたくノ一と謀って行う方法も記されている。くノ一が奥方に、宿に預け置いてある木櫃を取り寄せたいとさりげなく話せば不審がられないし、門番には事前に言っておくことによって、木櫃を取り寄せることができる。木櫃は二重底にしておき、上に衣装、下に人を忍ばせておいて、二人で担いで持ち込むようにしたら、他の方法では潜入しがたい場所にも忍びを潜入させることができ、これを「隠簑の術」と呼んでいる。

 さらには、巻十三「陽中陰術四箇条」によれば、相手の身分が高くて家が広く寝所がわからなかったり、敵の警戒が厳重で忍び込むのに困難な場合、くノ一の陽術でまず謀略を仕掛け、その後に忍び込む「陽中陰の術」を使うという。くノ一をうまい方便を用いて敵が思いもよらないところから入れ置いておき、その後で男の忍びを手引きして侵入させるのだという。およそ人が溺れやすいのは色と欲であり、とりわけ身分の高い者は色に溺れやすいので、このくノ一の術は陽術の中でもよい謀計だとしている。

 いわゆるハニートラップは、現在でもよく用いられる手法で、これによって追い落とされた事例は数知れない。外国赴任の決まった外交官も研修で再三注意を受けるという。日本人は嫌いだけれど、あなただけは別、といった甘い言葉によってスパイが近寄ってくるのはよくあることである。とりわけ上に立っているような人間は、どこに落とし穴が仕掛けられているかわからないので慎まなければならないということは、『当流奪口忍之巻註』にも記されるところである。

 忍者に関する言説については、さまざまに脚色されて関心を集めるように創作されていっているものが多く、それも一つの忍者文化と言えるかもしれない。女性の忍者がいて、かっこよく立ち振る舞っているのは、見ていてとても興味を惹かれるが、残念ながら創造の産物である。

 

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