Shinobi Hataraki by Yoshiki Takao

高尾善希の「忍び」働き

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巻の九 「もぐり学生」、先生を呼ぶ

三重大学人文学部准教授(三重大学国際忍者研究センター担当教員)高尾善希

 いままでお話してきた通り、私は三重大学にお世話になる前は、関東において研究者をしていたわけですが、国際忍者研究センターの運営にも、その経験を活かしています。たとえば、ここでご紹介する「忍者・忍術学講座」の講師選定です。

 三重大学では、「伊賀連携フィールド」(伊賀市・上野商工会議所・三重大学人文学部の連合組織)において、月ごとに、伊賀市「ハイトピア伊賀」3階を利用して、「忍者・忍術学講座」を開催していました。コロナ禍の折では、三重大学国際忍者研究センター公式YouTubeチャンネルで講義の公開をしています。

 毎年面白い講義ばかりなのですが、特に思い入れのある講座ラインナップは、2018年上半期の「忍者・忍術学講座」でしょう。私がほぼ選定させていただいた講師陣だったからです。日取りと講座名は以下の通りでした。

  • 4月21日・根岸茂夫(國學院大學文学部教授)「江戸の建設と服部半蔵・伊賀者」
  • 5月19日・深井雅海(徳川林政史研究所副所長)「広敷伊賀者と御庭番―隠密御用の実際―」
  • 6月16日・深谷克己 (早稲田大学名誉教授)「江戸時代の伊賀者― 一揆探索の隠密御用―」
  • 7月21日・呉座勇一 (国際日本文化研究センター助教)「伊賀と甲賀の一揆について」
  • 8月18日・瀧川和也 (三重県総合博物館展示交流事業課課長)
    「小天狗清蔵について―その活動と天正伊賀の乱後の復興―」
  • 9月15日・高尾善希「徳川幕府伊賀者の成立と展開」

 この中で特に私にゆかりのある先生方は根岸茂夫先生・深井雅海先生・深谷克己先生のお三方です。いずれもはるばる関東から三重県伊賀市にお越しいただきました。

2018年上半期の「忍者・忍術学講座」のポスター

武蔵野人脈―根岸先生・深井先生―

 根岸茂夫先生と深井雅海先生は、私にとって「武蔵野人脈」と括ってよいと思います。根岸茂夫先生は、関東近世史研究会という学会でお世話になり、三重大学に入る直前から『小金井市史』という自治体史(東京都小金井市の歴史)の編さんでもお世話になっていました。私は初学者のころ、根岸先生が編さんしたくずし字字典(『新編古文書解読字典』柏書房)を愛用していましたから、そこでも学恩を蒙っていることになりますね。

 また、深井雅海先生は、誰もが知る江戸城研究の第一人者で、拙著『忍者の末裔 江戸城に勤めた伊賀者たち』(KADOKAWA)の執筆でも、ご相談に乗っていただきました。私が武蔵野ふるさと歴史館の学芸員であった頃でも、深井先生が武蔵野市文化財保護委員を勤めていらっしゃったので、武蔵野市の公務で先生にお仕えしていた経験がありました。

 そんなことで、両先生を伊賀市にお迎えしたわけです。

「もぐり学生」

 今度は、深谷克己先生をお招きした事情についてご紹介します。……昔の大学には「もぐり学生」というひとがおりました。この「もぐる」とは、正規に履修していない学生が授業に出席することです。昔はおおらかでしたから、そういうことがだいぶありました。正規に履修していないのですから、単位として認められることはありませんし、もちろん、学費も支払っておりません。

 私はかつて、立正大学大学院に所属している大学院生でしたけれども、立正大学の指導教授(故・竹内誠先生)の許可のもと、早稲田大学大学院の深谷克己先生のゼミに「もぐり」、ゼミで「運営」(≒「ゼミ長」)という役に就いて、大学院代表で学会発表もやっていました。これらは私の履歴書には一切みえません。でも、ゼミの同窓会にも所属しています。立正大学と早稲田大学の間には単位互換制度もなく、早稲田大学には1円もお金をお支払いしていませんが、厚遇で迎えてくださったのは、学籍に拘らない、早稲田大学の自由な学風でしょう。ちなみに、センター研究員の池ノ谷君は深谷ゼミの後輩です。

 その縁で、深谷先生を「忍者・忍術学講座」にお招きしたというわけです。先生にはすでに藤堂藩の無足人や伊賀者関係のご研究がありましたし、先生のお実家も三重県久居市にあり、お里帰りも兼ねて伊賀市にお越しいただきました。深谷先生には『津藩』(吉川弘文館)というご著書もありますから、伊賀市でもご存じの方が多いかもしれません。

 ……ただし、面白いことがあります。2020年、私の長男が早稲田大学に入学しました。それで、今度は親としてまともに学費をお支払いしています。旧恩に対して、息子の学費支払いというかたちで報いている、という恰好でしょうか。

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