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伊賀鉄道初の女性運転士 田川夏帆さん
乗客、地域に愛される運転士を目ざして
取材協力:伊賀鉄道株式会社
伊賀鉄道の運転士を志願し東京から移住
「鉄道の運転士にあこがれていたので、募集を見て迷わず応募しました」と話すのは、伊賀鉄道初の女性運転士として働く田川夏帆さん(28)。田川さんは同鉄道の自社養成運転士の第1号※1でもある。
東京都町田市で育った田川さん。大学では文化地理学を専攻し、伊賀市の忍者を扱った観光形態について研究。現地調査のため、伊賀鉄道に乗って何度も伊賀に訪れていた。同時期に新幹線の女性運転士の特集番組を見てあこがれを抱き、鉄道業界への就職を目ざすもその思いは届かなかった。卒業後は横浜や山梨県のホテルに勤務。そんな時、鉄道グッズを探すために開いた伊賀鉄道のホームページで、偶然にも運転士募集のお知らせを目にする。夢だった運転士への道、それもなじみのある伊賀鉄道での募集「ここで運転士になりたい」迷いはなかった。その当時、2022年はコロナ禍で、住まいが遠方だったこともあり、オンラインの面接などを経て、無事採用が決まった。
入社して10カ月間は、駅係員として窓口を担当。切符の販売や改札、車内巡視などを行った。同時に運転士になるための準備も進め、まずは社内の登用試験にむけて、運転士のルールブックをもとに勉強に励んだ。登用試験に合格すると、座学研修に進み、奈良県にある近畿日本鉄道(近鉄)の動力車操縦者養成所(教習所)で、近鉄の運転士候補生と一緒に必要な知識を学んだ。同所での筆記試験に合格。伊賀鉄道に戻り、指導運転士の元で実技訓練を半年間受けた。そして、中部運輸局による国家試験(甲種電気車運転免許)に、見事合格。2024年12月から運転士としてデビューし、現在は週に5日程度、伊賀上野~伊賀神戸間の運転を行っている。
※1 伊賀鉄道では自社養成運転士の2期生が研修中です(2025年12月現在)。
運転前の点検を行う田川さん。 |
田川さんが運転する忍者列車がホームに到着。 |
先輩運転士との対話を大切に 学びを業務にいかす
田川さんは自社養成運転士第1号ということで、同鉄道にとっても初めてのことが多く、周囲からの期待も大きかった。田川さんは「頑張ってよかった。応援してくださった方への恩返しができた」と合格当時を振り返る。
運転士になって約1年が経ち、これまで様々な事態に直面。気象条件が悪い中での運転や動物との接触といったものから、車内で具合が悪くなった乗客への対応といった、異例事態も経験した。ワンマン運転なので、車掌がおらず運転士が一人という状況の中で、伊賀鉄道指令と連絡を取り合い、指示を受けながら無事に対応してきたという。
「夜の雷雨は怖いですね。稲光がまともに見えます。雷が落ちてしまうと床下機器が壊れてしまうので、パンタグラフ※2を降ろすこともあります。大雨の時は、線路が滑りやすく速度が出にくかったり、停車が難しかったりします。遮断機が降りているのに、踏切内に入ってしまった歩行者がいて驚いたこともあります」と田川さん。その状況に合わせて適切な対応ができるよう、先輩運転士に積極的に相談するようにしているという。
※2 鉄道車両に用いられる集電装置のひとつ。
上野市駅~伊賀上野駅間を運転する田川さん。 |
集札の様子。田川さんはいつも、乗客の気持ちに寄り添った、丁寧な対応を心がけている。 |
多くの人から愛される運転士に
土日は家族連れで利用する乗客も多く、電車好きの子どもが楽しそうに乗車している姿を見るのが、とても嬉しいと話す田川さん。夢は多くの人から愛される運転士になること。そのための勉強も欠かさない。
「無事故運転が第一ですが、なるべくお客様の気持ちになって、どうしたら快適に乗車していただけるかを考え、車内はもちろん、車外でも丁寧な対応を心がけるようにしています。沿線の観光名所や飲食店、土産物店を調べたり、外国から来られたお客様にも楽しい思い出を作っていただけるよう、語学の勉強もしています。私個人もそうですが、地域の方をはじめ、たくさんの方に愛される伊賀鉄道になってほしいですね」と、田川さんは笑顔で夢を語った。
※伊賀鉄道についての詳細はこちらをご覧ください。
取材日:2025年11月







