Iga people

伊賀人バンザイ!

ホーム伊賀人バンザイ!圡楽 八代目当主 福森 道歩さん

ここから本文です。

圡楽 八代目当主 福森 道歩さん

窯元、料理人として、土鍋の魅力を“ちゃんと発信”

四姉妹の末っ子 料理人を目ざした時期も……

 「子どもの頃から姉と一緒に工房に入っては、作陶の様子を見ていました。名工と賞された職人さんがろくろを回すと、手品のようにスルスルと粘土がのびて土鍋ができあがる。それを見るのが楽しくて仕方なかった」と話すのは、三重県伊賀市丸柱で江戸時代から続く窯元「圡楽」の八代目当主 福森道歩さん。

  四女だったこともあり、20代前半は後を継ぐことは考えていなかった。短大卒業後は好きだった料理の道を選んだ。東京で料理研究家のアシスタントを務めたのち、辻調理師専門学校に進学。しかし、壁にぶつかってしまう。「授業で海老を捌いたときに、海老の動きが体に伝わって、締めることが怖くなったんです。行き詰った私を見て、知人から京都の禅寺 大徳寺に行ってみてはと声をかけていただき、手紙を書きました。そして、1年間お寺で過ごす許可をいただきました。毎日、読経や掃除、精進料理を作って過ごすうちに、気持ちの整理がついて、また以前のように料理ができるようになりました」

 一方、実家では、後を継ぐ予定だった長女が、父と意見が対立して家を出てしまっていた。次いで、後継ぎの修業をしていた三女から、結婚を機に家を出るつもりだと、連絡があった。それはちょうど、道歩さんが大徳寺を出る時期だった。「父の元を離れて早く独立したいという思いから、自分で選んだ道を歩んできたつもりだったのですが、初めて大徳寺の和尚様にお会いしたときに、『父は和尚様と親しく付き合いもある』という話をうかがったんです。結局、私は父とは離れようとしても離れられない。そう思うと窯に入ることが嫌ではなくなっていました。そして姉からの連絡を聞いて、後を継ぐ決心がつきました」

 

田んぼや里山の豊かな自然が広がる三重県伊賀市丸柱にある「圡楽」。

 

土鍋を挽く道歩さん。「兄弟子から『外を作らず、中を作れ』と教わりました。中の形が決まってくると自然と外の形も決まってくるんです」

土鍋は育てて使うもの 基本を押さえれば毎日使える調理道具に

 道歩さんが窯に入ったのは28歳。2年程は経理を中心に行っていたが、30歳頃から作陶をはじめ、職人に一から土鍋づくりを教わった。現在は主に料理の器をつくっていて、年に数回個展を実施している。

 窯に入って自分にできることを模索していた道歩さん。土鍋は福森家では毎日使う調理道具として欠かせない存在。しかし、多くの家庭では、ほとんど秋冬にしか登場しない。そこで、料理人としての経験をいかして、日常使いできる調理道具としての土鍋の魅力を、扱い方や調理法を含めて“ちゃんと発信しよう”と考えた。それから、土鍋を使った料理会やWEBサイトでの土鍋料理の紹介、テレビ出演や料理本の出版と様々な形で土鍋のよさを発信し続ける日々を送っている。「土鍋には長所と短所があるのは事実です。使い始めには目止め※1が必要ですし、急激な温度変化はタブーです。ですが、基本の“き”さえ押さえれば、自分のための土鍋に育ってくれます。まずは毎日ご飯を炊くのがおすすめです。その美味しさに気づいていただけると思います。もちろん、スープや煮込み料理、蒸し料理などいろいろな料理に挑戦してみてくださいね」

※1 目止め…鍋などに入っている気泡や細かなひびをでんぷん質で固めて、水漏れを防ぐようにすること。

素焼きの後に釉薬をかけて、本焼きを待つ土鍋や皿。

焼きあがったばかりの土鍋は、貫入(かんにゅう)※2 が入る。「チりン」と、とても綺麗な音がなる。「ひと月経っても音が鳴ることがあるんですよ」と道歩さん。

※2 貫入…釉薬が冷えてヒビのような状態になって固まる現象。

土鍋を手挽きろくろでつくる理由

 7代目で父の雅武さんは、かの白洲次郎・正子夫妻と家族ぐるみの付き合いをし、他にも多くの著名人と交流がある、知る人ぞ知る存在。早くに父をなくし、若くして後を継いだ雅武さんが当主になった時期は、量産のために機械で型にはめてつくる土鍋が主流になっていた。そんな中で、雅武さんは、あえて手挽きにこだわり、今や圡楽の顔となっている「黒鍋」をはじめとする新しい土鍋を次々に生み出した。

 「手挽きの土鍋は型押しの土鍋に比べて、土の中の空気が潰れすぎず、丸い状態で残ります。そのため、さほど厚みがなくて軽くてもゆっくり温度があがって、旨味を引き出す調理ができます。そして、手挽きは何といっても造詣の美しさがあります」と、道歩さんは手挽きの土鍋をつくり続ける理由を話す。

 これまでずっと走り続けてきた道歩さん。自身の今後について聞くと「父もそうなんですが、私は自然から学んで器をつくることが多い。もう少し時間がとれるようになったら、自然の中でじっくり自分と向き合って、自分の作品づくりにももっと力をいれたいですね」と陶芸家としての思いを語ってくれた。

取材時は穴窯の窯焼きを行っていた。「火は神様です」と話す道歩さん。窯焼きは機械の窯と違って、火の温度や回り具合などが作品の仕上がりを大きく左右する。焼き上がりはいつもドキドキするそう。

道歩さんの作品。小皿や小鉢、片口といった料理の器が多い。

※圡楽の詳細は、HP(https://doraku-gama.com/)をご覧ください。

取材日:2023年10月

 

一覧

このページの先頭へ