第15回 義盛百首

 
忍者の聖地 伊賀

第15回 義盛百首

三重大学人文学部 教授 山田 雄司

 現在伊賀の敢國神社と愛宕神社(忍之社)に行くと、「伊勢三郎義盛忍百首みくじ」というおみくじを引くことができる。このおみくじは、伊賀上野観光協会の企画で、私が忍びの歌をまとめた『義盛百首』から現代人にも有益な歌を選んで現代語訳を付けたものに、作家の多田容子さんに解説を書いていただき、さらにイラストレーターの方に絵を描いてもらった豪華なものである。

義盛百首

敢國神社の伊勢三郎義盛忍百首みくじ

 『義盛百首』とは、源義経の郎党で『平家物語』では鈴鹿山の山賊とされる伊勢三郎義盛が作者に仮託される道歌で、実際には17世紀初頭に成立したと考えられる。実際の伊勢三郎義盛についてはよくわからないところが多いが、『万川集海』忍術問答では、楠木正成父子・武田信玄・毛利元就・越後謙信・織田信長と並んで忍術使いの筆頭にあげられる人物で、「中ニモ義盛ハ忍ビノ事ヲ歌百首ニ詠ジ置キ、今ニ伝フ」と記されるなど、義経との関係から忍術使いとして重要視されている人物で、四日市西福寺に墓がある。

 和歌をまとめた○○百首という歌集は、『小倉百人一首』をはじめ多数編まれており、その一環で忍びに関する心がけをまとめた『義盛百首』も編まれたのだろう。『義盛百首』の初出は、元和4年(1618)成立の軍法をまとめた小笠原昨雲『軍法侍用集』巻第七第二十「よしもり百首の事」である。その中から興味深い歌について紹介したい。

ようちにはしのびのものを先立てゝ敵の案内しりて下知せよ
軍には窃盗(しのび)物見をつかはして敵の作法をしりてはからへ
窃盗者(しゃ)に敵をとひつゝ下知をせよたゞあやうきは推量のさた
はかりごとも敵の心によるぞかししのびを入れて物音をきけ

 こうした歌では、まず敵方の事情を知ってから攻め込むことが重要であることを詠っており、忍びが重要であることを説いている。

いつはりもなにかくるしき武士(もののふ)は忠ある道をせんとおもひて
しのびとて道にそむきしぬすみせば神や仏のいかでまぼらん
窃盗(しのび)には三つのならひのあるぞかし論とふてきと扨(さて)は智略と

 こうした歌では、忍びは盗みとは違い、「武士」であって、「忠」なる心が大事であると説いている。また、忍びは「論」すなわち口が上手いことと、「不敵」すなわち何事も恐れることのない勇気と、「智略」すなわち才覚が必要であると説いている。さらに、次の歌が忍びの特徴をよく示している。

敵にもし見つけられなば足はやににげてかへるぞ盗人(ぬすびと)のかち

 現在、忍術といえば武術の一種だと考えられている節があるが、「しのび」が闘うことはほとんどなかったものと思われる。この歌でも、敵に見つけられたら足早に逃げて帰るようにと詠われている。

 忍びの最も重要な職務は、兵糧がどれくらいあるのか、城の構造はどうなっているのかといった敵国の情報を伝えることである。もし敵と戦ってしまうことになれば、自らが死んでしまう可能性が高くなり、味方に情報を伝えられなくなって戦闘計画もたてられなくなってしまう。そのため、侵入する前には出口を確認しておき、敵に見つかったら戦うのではなく逃げてくるのが第一なのである。

 ちなみに私が敢國神社で引いたおみくじは「しのびには時をしるこそ大事なれ敵のつかれとゆだんする時」で、カードの暗示は「タイミング」で「吉」と出た。全体運・生活・仕事・恋愛についてのアドバイスが書かれているので、ぜひ引いていただきたい。

 

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