第12回 「忍」のもつ意味

 
忍者の聖地 伊賀

第12回 「忍」のもつ意味

三重大学人文学部 教授 山田 雄司

 『日本国語大辞典』第二版で「しのび【忍】」を引くと、以下の説明が施されている。

(1) 目立たないようにすること。隠れたりして人目を避けること。
(2) 人目に付かないような、もののかげ。
(3) こらえること。がまんすること。
(4) 「しのびあるき(忍歩)」に同じ。
(5) 「しのび(忍)の術」の略。
(6) 「しのび(忍)の者」の略。
(7) 「しのびがたな(忍刀)」に同じ。
(8) 「しのびあい(忍逢)」の略。
(9) 伏兵。
(10) 他人の財物をひそかに盗む者。窃盗。
(11) 草履(ぞうり)をいう、盗人仲間の隠語。
(12) 夕暮をいう、盗人仲間の隠語。

 忍び、忍者、忍術、これらに共通して使われる「忍」という文字には、誰にも知られずひそかに忍び込むという意味があり、相手のいる場所や城などにひっそりと侵入する人のことを「忍び」と呼ぶようになった。その上、「忍」には耐えしのぶ、がまんするという意味もあり、忍者の人たちは日々の努力を積み重ねて任務を遂行する人たちでもあった。決して目立つことなく、自分の成果を誇らしげに語ることもなく、けれども大きな仕事を成し遂げる人、それが忍者だったのである。

 「忍」という漢字は、上が「刃(やいば)」下が「心(こころ)」から成り立っている。つまりこの字は、心臓に刃物が突きつけられるような危機的状況であっても動じずに冷静に考え、自分の意思を変えないという強い心をあらわしている。

 『当流奪口忍之巻註』では、そのことについて以下のように述べている。

 忍の一字。この一字至て大事也。字の心は刃の下に心を書。心は胸也。胸に白刃を当て物を問ひ、決断に逢ふ心也。

 さらに次のように書かれている。「忍」と「凌ぐ」とは同じようで大いに違う。「凌ぐ」とは暑いときに扇をかざして日よけにするように、物を隔てて凌ぐことを言い、「忍」は直接当たっているのを我慢することを言うのである。また、「灸の皮切り(最初の灸は皮が切られるような痛みを感じる)」を忍ぶように、「忍」の心持ちがなければ功を遂げることはできない。ゆえに万事に「忍」の心が大事である。

『当流奪口忍之巻』(伊賀流忍者博物館所蔵)

『当流奪口忍之巻』(伊賀流忍者博物館所蔵)

 「忍」には、忍生・忍死・忍欲・忍我・忍人の五忍があり、これが忍びの大事だとしている。

忍生: どのような辱めを受けても生を保たなければならない。
忍死: 平生から忠義のために命を捨てることも恐れず、また忠義に限らず万のことについて死を恐れない。
忍欲: 金銀ばかりでなく何であっても心の望み欲することを制する。
忍我: 人に対して言いたいことがあっても自己主張をせず自分を押し殺す。
忍人: 人に諂わず人に従わず己の心のままに自立する。

 「忍」という心持ちは、忍びにとって重要な考え方であるだけでなく、日本人の心の基層の部分を形成している考え方であり、その心が日本を創りあげたと言っても過言ではなかろう。

 

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