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第5回 映画『忍びの国』

三重大学人文学部 教授 山田 雄司

原作:和田竜、監督:中村義洋、主演:大野智、配給:東宝による映画『忍びの国』が今夏全国の映画館で上映されている。私は5月31日に開催されたジャパンプレミアにおいて、一足早く拝見させていただいたが、主演が人気グループ嵐の大野さんということもあり、会場は若い女性の熱気であふれていた。

小説『忍びの国』はいわゆる「第一次天正伊賀の乱」を描いた作品で、新潮社より2011年に出版され、大変話題となった。私は和田竜さんと2度対談させていただいたことがあり、小説家の方の仕事に大変刺激を受けた。和田さんはこの小説を書くにあたって、天正伊賀の乱に関するさまざまな研究書や資料を収集して読み込んだという。小説は事実を書く必要はないが、和田さんの歴史小説は、できるだけ史実に近いものを描こうとしているという。かつて司馬遼太郎氏が新たな小説を書くとき、神田神保町の古本屋で関連書籍を山のように購入するため、古書の値段が一気に跳ね上がったということを聞いたことがあるが、歴史小説を書くとなれば、それくらい資料を集めなければ書けないのだろう。私は到底それには及ばないが、それでも、研究室や自宅は本であふれている。

無量寿福寺から天正伊賀の乱のきっかけとなった丸山城跡を望む

そうして書かれた小説をもとに映画が製作されたのであるが、映画の紹介文を一部紹介すると、以下のように書かれている。

今や織田家の天下統一は目前であった。しかし、その織田信長でさえ攻め入らなかった国がひとつだけあった。それは伊勢の隣国・伊賀。伊賀に棲むのは人を人とも思わぬ人でなしの忍者衆で、“虎狼の族”と呼ばれて恐れられていた。
   (中略)
最強織田軍 対 伊賀忍び軍
圧倒的な戦力で伊賀に攻め込む織田の軍勢。伊賀は武力・兵力では到底かなうはずもない。しかし、無門率いる忍びの軍団は誰も想像できない秘策を用意して織田軍に対抗するのだった!

伊賀衆をすべて忍者衆としていいのか、そしてそのような人たちは「人でなし」だったのか等々、突っ込み所はいろいろあるが、「戦国エンターテインメント」としては大変面白く仕上がっていると思う。

当初私は、原作:村山知義、監督:山本薩夫、主演:市川雷蔵の『忍びの者』のような陰鬱としたストーリーと映像が展開するのかと思っていたが、さにあらず、大野さんのひょうひょうとした演技と想像を超える「忍術」は、これまでとは違った忍者映画となっている。映画やアニメなど、これまでさまざまな忍者作品が制作されてきているが、それはそれぞれの時代を反映していると言える。

そうした観点からすると、今回の『忍びの国』をどう評価したらよいだろうか。今回は主役がアイドルの大野さんであること、ところどころで笑わせる要素を組み込んでいること、いろいろな技術を使って驚かせる「忍術」を披露していること、といった点から、観ている人を楽しませるエンターテインメント性が重視されていると評価できるのではないだろうか。

もちろんこれまでも観ている人を楽しませるために作品が作られてきているわけだが、今回は特に若い女性をターゲットに作られているということに特徴があろう。『忍びの者』は成人男性に、『忍たま乱太郎』は子どもに受け入れられて忍者人気が拡大したが、今回の若い女性をターゲットとした試みは、忍者人気をどこまで押し上げるだろうか。「刀剣女子」や「歴女」という言葉もあるとおり、現代ではブームを作るのは女性であるから、映画『忍びの国』の試みにより忍者人気がより一層拡大することが望まれる。そして、地元でもそれを受け入れる試みを考えていく必要があろう。

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