Birthplace of ninja

忍者の聖地 伊賀

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第1回 忍者研究事初め

三重大学人文学部 教授 山田 雄司

本年2月22日の忍者の日に、伊賀市は「忍者市宣言」を行った。それによると、伊賀市は忍者発祥の地として、忍者の歴史文化や精神を継承し、これからますます忍者を活かした観光誘客やまちづくりを行うことを目指していくという。忍者については、虚実ない交ぜとなってさまざまに姿態変容を遂げ、今や世界中で知られた存在となっている。そして、その本拠地である伊賀・甲賀の名前も認知されつつある。

大正時代以来、これまでにも何度か忍者ブームはあったが、今回のブームの特徴は、クールジャパン・地方創生といった国家の政策とも関連し、産・官・学・民一体となって忍者に関わる研究・出版・製作・イベントなどに取り組んでいることにあると言えよう。そして、日本各地の忍者に関わりのある自治体や団体がそれぞれ個性ある忍者を創出し、それを束ねる日本忍者協議会という鈴木英敬三重県知事を会長とする団体も設立され、日本各地で取り組みが行われていることは、これまでにない特徴である。

伊賀忍者に関しては、古くは伊藤銀月(1871-1944)によってとりあげられているが、全国に「忍者の聖地・伊賀」を認知させることに大きく貢献したのは、上野市長であった奥瀬平七郎(1911-1997)の功績が大きい。奥瀬は上野市役所職員の時代から忍術研究に取り組み、著書の執筆のほか、地元で「世界こども博」を開催して忍者の展示をし、ラジオやテレビへの出演などを通じて伊賀忍者を全国にアピールした。このときの企画が基盤となって、現在に至るまで伊賀では忍者に関する取り組みが行われていると言ってよいだろう。

三重大学では、地域との連携という観点から、2012年に上野商工会議所、伊賀市と協定を結んで三重大学伊賀連携フィールドという組織を立ち上げ、以来忍者に関するさまざまな取り組みを行っている。忍者に関してはさまざまに知られているものの、学術的研究がほとんどなされていないことから、人文学部を中心に史料に基づいた実証的研究を始めることとなった。その際、貴重な史料を所蔵する伊賀流忍者博物館および甲賀流伴党21代目宗家川上仁一氏の全面的協力を得られたことが、忍者・忍術研究を推進させる大きな礎となった。

2014年からは三重大学伊賀研究拠点とも連携して文理融合によって忍者の知恵の科学的研究を行っており、その成果は、2016年に朝日新聞社主催のもと日本科学未来館・三重県総合博物館で開催された企画展「The NINJA-忍者ってナンジャ!?-」によってひとまず到達点に達した。忍者展に予想を上回る多数の来場者にお越しいただいたことは、総合監修の私、および特別協力の三重大学にとって、大変大きな財産となった。

これまで伊賀連携フィールドでは、伊賀での連続市民講座、古文書講座・英語講座、三重テラスでの講座、公開トークイベント、国際シンポジウム、史跡めぐり、高大連携企画、留学生体験企画、忍者関係資料データベース(日本・海外)の作成などを行い、多数の皆様の御協力により活動を展開することができた。

ケルン忍者講座(2016年11月16日開催)

また、海外でも国際交流基金や在外日本国大使館、大学などとの共催により忍者講座を開催してきた。これまで講座やシンポジウムを行ったのは、モンゴル(ウランバートル)、中国(北京)、イギリス(ロンドン)、スペイン(アリカンテ・バレンシア・バルセロナ・マドリード)、イタリア(ローマ)、フランス(パリ)、ブルガリア(ソフィア)、スロベニア(マリボル)、クロアチア(ザグレブ)、ハンガリー (ブダペスト)、アメリカ(ニューヘイブン・ニューヨーク・シアトル)、ロシア(モスクワ・サンクトペテルブルク)ドイツ(ケルン)、オランダ(ハーグ)といった国々である。どの会場でも早々に定員となるなど、忍者に関する人気が想像以上に高いのは驚くばかりである。

海外において忍者人気が高い理由は、アニメの影響が大きい。また、格闘技に関心があって忍術に興味をもっている場合も多い。どちらの場合も、日本文化に関心があり、その中でも不思議な存在で実態のよくわからないニンジャについて詳しく知りたいという知的欲求が高く、さまざまな知識をもっている人々も多い。講座後の質問内容は多岐にわたり、専門的な質問も少なくない。また、日本に行ったらどこで忍者の修行ができるのか、忍者の知恵を活かした医療や教えを説くところはないのかといった現代的関心を持っている外国人も少なからずあり、世界から忍者ファンを受け入れる設備や体制作りは「忍者の聖地・伊賀」にとって喫緊の課題である。

国内外の忍者に関する認識も高まり、それに伴い本物志向が強まっている。ぜひこの機会を逃さず、さらに一過性のブームで終わらせることなく、さまざまな方々と協力して、これまで地元で大切に培われてきた「忍者の聖地・伊賀」を発展させていけたらと思う。

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